- AIツール導入や開発に活用できる主要な補助金・助成金4種の比較と、最適な選び方
- 補助金と助成金の決定的な違いと、それぞれのメリット・デメリットの把握
- 申請実務における契約時期などの「落とし穴」を回避するための具体的な注意点
AI導入を加速させる主要補助金・助成金 5種の徹底比較
AIツール導入や人材育成にかかるコストを大幅に削減できる国の支援制度は、大きく分けて「補助金」と「助成金」の2種類があり、それぞれに特徴と目的が異なります。まずは、代表的な5つの制度を目的別に解説します。

1. IT導入補助金(AIツール導入による業務効率化向け)
AIを活用したSaaSツール(人事管理、勤怠、採用管理など)の導入による業務効率化を目指す企業にとって、活用しやすい制度の一つです。
【主な対象】
- ソフトウェア購入費
- クラウド利用費
- 導入支援に関わる専門家経費 など
※登録ITツールの導入が必須。自社独自開発のみは原則不可。
【AIツール導入の視点】
業務プロセスをAIで効率化するツールが対象。
例:
- 生成AIのAPIと連携した独自の業務システム
- AIがレジュメを自動解析する採用管理システム(ATS) など
【留意点】
業務効率化AIツールの導入費用は、本制度の対象。
通常枠やインボイス枠など、比較的安価なSaaSツールから導入しやすい設計ですが、採択率は年度や公募枠によって変動します。競争環境にあることは認識しておく必要があります。
2. ものづくり補助金(AI活用・生産性向上投資向け)
中小企業等の生産性向上を目的に、AI・IoTを含む設備・情報システム投資を支援する制度です。補助上限は枠により数千万円(最大4,000万円、枠・特例により)とAI関連投資でも活用しやすい点が特徴です。
【主な対象】
- 機械装置
- システム構築費(中核)
- 技術導入費
- 外注費
- 専門家経費
- クラウドサービス利用費 など
【AI開発の視点】
製造・業務プロセスにAIを組み込むシステム構築や設備×AI連携等の投資が対象。学習用ツール単体導入など“設備性の低い”支出は不採択リスクが高い。
【審査・加点のポイント】
- 革新的な新製品・新サービスの実現性
- 高付加価値化
- 賃上げ等の政策適合
これらが主要な評価軸となり、総合的に審査されます。
3. 中小企業新事業進出補助金
2025年度から新規公募が開始された「中小企業新事業進出促進補助金」は、旧・事業再構築補助金の後継制度です。自社独自のAI技術開発や、AIを活用した全く新しい事業(新サービスの展開など)にチャレンジする企業を支援する制度で、補助上限は750万〜7,000万円、賃上げ要件を満たす特例では最大9,000万円まで引き上げられます。
【主な対象】
- 機械装置
- システム構築費
- 外注(委託開発)
- 技術導入費
- 専門家経費 など
【AI開発の視点】
- AIシステム開発
- 自社の新サービス構築に係るシステム構築費
- クラウド費 など
※但し内製人件費は対象外
【採択の加点のポイント】
審査は以下を軸に評価されます。
- 新市場性
- 高付加価値性
- 実現可能性
- 政策面 など
加点はパートナーシップ構築宣言・くるみん・えるぼし等の認証類が中心です。
4. 小規模事業者持続化補助金(小規模なAI活用・販路開拓向け)
従業員が少ない小規模事業者が、AIを活用したWebサイトの改修や、顧客分析ツールの導入など、比較的小規模なAI活用や販路開拓に使える制度です。
【主な対象】
- 機械装置等費
- 広報費
- Webサイト関連費 など
【AI活用シーン】
- 顧客データ分析ツールのサブスクリプション費用
- AI画像生成機能を用いた販促物の制作費 など
経費として認められるのは、販路開拓や生産性向上に明確に資する目的に限られ、単なる社内学習用ツール費などは趣旨外となる可能性があるため、経費区分の当てはめに注意が必要です。
また、小規模なAIツールの導入や、AIを活用したデジタルマーケティングの取り組みは、この制度で資金調達が可能ですが、事業計画書でその費用対効果を具体的に示す必要があります。
5. 人材開発支援助成金(AI研修・リスキリング費用向け)
AIスキルを習得するための研修や、デジタルリテラシー向上を目的としたリスキリング費用に特化した助成金です。
【最大の特徴】
「助成金」であるため、補助金のような公募型の競争審査はありません。要件を満たし、計画通りに実施すれば受給可能ですが、要件不備や書類の不備等で不支給となる審査は存在します。
【主な対象】
- 職務に関連する専門知識・技能を習得させるための訓練費用
- 訓練期間中の賃金の一部
【助成率の詳細(令和7年度改定水準)】
- 特定訓練コース(デジタル分野):経費助成率45%(中小企業)
- 訓練期間中の賃金助成:1時間あたり800円(中小企業・OJT以外)
- 訓練後に賃上げ目標を達成した場合など、助成額が1時間あたり1,000円に引き上げられる優遇措置あり
最新の助成要件や詳細は厚生労働省の公式情報を必ずご確認ください。
参考
・ IT導入補助金公式サイト「IT導入補助金」|経済産業省
・ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金|中小企業庁
・中小企業新事業進出促進補助金(旧・事業再構築補助金 後継制度)|中小企業庁
・小規模事業者持続化補助金|日本商工会議所
・人材開発支援助成金|厚生労働省
【目的別】あなたのAI導入計画に最適な補助金は?

自社のAI導入計画の目的とフェーズに合わせて、最適な制度を特定しましょう。
| AI導入の主な目的 | 最適な制度(第一候補) | 補助上限額 | 採択の主なポイント |
|---|---|---|---|
| 既存業務の効率化(SaaS導入、RPA導入) | IT導入補助金 | 5万円〜450万円 | 導入するAIツールと業務改善の関連性 |
| AIを組み込んだ設備投資・業務プロセス高度化 | ものづくり補助金 | 750万〜2,500万/グローバル枠3,000万(賃上げ特例で最大4,000万) | 新製品・新サービスの実現性・高付加価値化、賃上げ等の政策要件、設備性(機械装置・システム構築費が中核) |
| 自社独自のAI開発・新事業への参入 | 中小企業新事業進出補助金 | 数千万円規模(750万〜7,000万/特例で最大9,000万) | 革新性・市場性・成長性(大規模投資向け) |
| AIを活用した小規模な販路開拓・改善 | 小規模事業者持続化補助金 | 50万円(通常枠) | 地域の需要を捉えた販促計画の具体性 |
| 従業員のAIスキル・リテラシー向上研修 | 人材開発支援助成金 | 経費助成率:45〜75%(コースにより)/賃金助成:800〜1,000円/時 | 訓練計画と就業規則上の要件遵守(競争審査なし) |
AI導入の目的が「業務効率化」なのか「新規事業開発」なのか、また必要な資金調達の規模が小さいのか大きいのかによって、選ぶべき制度が分かれます。
AI関連の資金調達においては、「補助金」と「助成金」のどちらを選ぶかも重要です。次の章で、両者の違いを詳しく見ていきましょう。
【 補助金 vs 助成金】審査の有無と使い道の違い
補助金と助成金はどちらも返済不要の国の支援金ですが、明確な違いがあります。

1. 補助金(IT導入、ものづくり、中小企業新事業進出、持続化補助金)
- 特徴: 経済産業省系の制度が多く、経済政策的な目的(生産性向上、新事業創出など)が強い
- 審査: 公募期間があり、審査(競争)あり。採択率は制度や回次で異なる
- 上限額: 数百万円〜数千万円と高額な案件が多い
補助金は申請しても不採択の可能性はありますが、高額な資金調達をしたい場合に有力な選択肢です。
2. 助成金(人材開発支援)
- 特徴: 厚生労働省系の制度が多く、雇用・労働環境改善的な目的(人材育成、離職率低下など)が強い
- 審査: 競争公募はないが審査や実地調査あり。要件を満たした計画を提出する必要がある
- 上限額: 経費助成率と賃金助成が基本。訓練経費・時間に応じて算定
助成金は調達の可能性は高く、AI研修やリスキリング費用を確実にカバーしたい場合に最適な手段です。
【実務ノウハウ】採択率を高める申請対策
高額な補助金を申請する場合、不採択というリスクを回避するための実務的なノウハウが必要です。ここでは、採択率を高める2つの対策をご紹介します。
1. 「生産性向上」の目標値を定量的に記述する
審査員は「このAI導入によって、申請企業はどれだけ成長し、日本経済に貢献するのか」という視点で評価します。抽象的な「効率化します」だけでは採択されにくいです。
- 悪い例: 「AI-OCR導入により、経理業務の効率化を図る。」
- 良い例: 「AI-OCR導入後1年間で、月間100時間の入力作業を90%削減し、社員3名分の工数(年間450万円相当)をより付加価値の高い業務に振り向けることで、売上を15%向上させる。」
採択される事業計画書では、AI導入前後の効果を具体的な数値(時間、コスト、売上)で明確に示し、実現可能であることを裏付けることが重要です。
2. 公募要領を読み込み「加点要素」を確実に狙う
ほとんどの補助金には、採択を有利にするための「加点要素」が設定されています。政策的に特に推奨したい取り組みを計画書に反映するだけで、採択率は大幅に高まります。
【主な加点要素の例】
- デジタル化要件: ITツール導入によるデータ連携やクラウド利用などが求めらる(IT導入補助金)
- 賃上げ計画: 申請後、数年間で従業員の賃金を具体的な目標値まで引き上げる計画を立て、実行することを宣言(ものづくり補助金、事業再構築補助金など)
加点要素は、公募要領の「審査項目」や「加点項目」に明確に記載されています。これらの要件を確実に満たすことで、採択の確率を高めることが可能です。
補助金申請で「時間と費用」を無駄にしないための注意点
申請の実務には、多くの企業が見落としがちなリスク要因があります。あらかじめ注意すべきポイントを押さえておくことで、余計な時間やコストの発生を防ぐことができます。
交付決定前のAIツール契約や発注はすべて補助対象外
補助金制度において、最も重大なルール違反の一つが「事前着手」です。
【ルール】
補助金の「交付決定日」よりも前に、AIツールの購入契約やシステム開発の発注、費用支払いを行った場合、その経費はすべて補助金の対象外
【実務上の注意点】
補助金の採択通知を受け取った後、事務局との間で「交付決定」という正式な手続きを経て初めて、補助事業の開始が認められる
対策としては補助金が交付決定されるまで、契約書への押印や発注書の送付は絶対に行わないことです。事前着手は、不採択だけでなく、補助金全額の返還を求められるリスクもあるため、細心の注意が必要です。
FAQ(よくある質問)
Q. 補助金はいつもらえるのですか?
A. 補助金は「後払い」が原則です。
採択が決定した後、事業(AI導入など)を実施し、実績報告書を提出します。その後、事務局の検査を経て、問題がなければ事業完了から数ヶ月後に指定口座に振り込まれます。先に全額を自己資金で支払い、後から補助金を受け取るため、一時的な資金繰りの準備が必要です。
Q. 外部のコンサルタントに申請を依頼すべきですか?
A. 必須ではありません。ただし計画のブラッシュアップや実務負荷の軽減には有効です。
申請書の作成は申請者本人が行う必要があり、外部支援は助言の範囲で活用してください(例:中小企業新事業進出補助金では外部助言は可、丸投げは不可)。
まとめ
本記事では、AI導入を加速させるための主要な支援制度を解説しました。
数千万円規模の支援が受けられる「補助金」は非常に魅力的ですが、まずは「人材開発支援助成金」を活用し、従業員のAIスキルを向上させるためのリスキリング研修から始めることをおすすめします。
AIツールの導入は、活用する「人」が使いこなせてこそ最大の効果を発揮します。「人材開発支援助成金」の要件を確認し、自社のAI人材育成に向けて一歩を踏み出してみてください。
