この記事でわかること
- AI作成の応募書類に共通する5つの特徴と具体的な見抜き方
- 書類では判断できない場合の、面接での効果的な深掘り質問例
- AI時代に適応するための採用フローと選考設計のアップデート方針
なぜ今「AI応募書類」を見抜く必要があるのか
AIツールの利用自体は、業務効率化の観点で評価されるべき側面もあります。しかし、採用選考において「AIに丸投げした書類」を見過ごしてしまうと、入社後の深刻なミスマッチを招く可能性があります。
採用ミスマッチのリスク増大
AIが作成した書類をそのまま信じて選考を進めてしまうと、主に以下の2点で深刻なミスマッチが発生します。
1. 「文章力」と「実際のコミュニケーション能力」の乖離
AIが作成した文章は、論理構成が完璧で、非常に読みやすいのが特徴です。これを候補者本人の実力と誤認してしまうと、面接や入社後の実務で「報告・連絡・相談がうまくできない」「論理的な説明が苦手」といったギャップに直面する可能性があります。
2. 志望度の見誤り
AIは一般的な情報をきれいにまとめることは得意ですが、候補者独自の「熱意」や「泥臭い経験談」までは再現できません。AIが作成した志望動機を高く評価してしまうと、本来採用すべき「不器用だが熱意のある人材」を取りこぼし、逆に「表面的に整えただけの志望度が低い人材」を採用してしまうリスクが高まります。
一方で「AI利用=不採用」と即断するのは危険
ここまで「見抜き方」の必要性をお伝えしましたが、AI使用の痕跡があるからといって、機械的に不採用とするのは危険です。なぜなら、ビジネスの現場では今や「AIを使って業務を効率化すること」が求められているからです。

「AIに丸投げ」か「AIを使いこなしているか」の区別
重要なのは、AIを使ったこと自体ではなく、その「使い方」です。
【不採用のリスクがあるケース(思考停止)】
- プロンプト(指示)を一回投げただけの出力結果を、内容も確認せずにそのまま貼り付けている
- 自分の言葉や意思が全く介在していない
【評価すべきケース(業務効率化)】
- 自分の経験や思考を箇条書きにし、AIを使って「読みやすく整える」ために活用している
- AIの出力結果に対し、自分の言葉で加筆・修正を行っている
優秀なエンジニアやマーケターほど、日頃から生成AIを「壁打ち相手」や「校正ツール」として活用しています。したがって、採用担当者が目指すべきは、「AIを使っている人を排除すること」ではなく、「AIに思考を委託してしまっている人(手抜き)」を見極めることです。
これから紹介するチェックポイントは、あくまで「この候補者は要確認」というフラグを立てるための目安として活用してください。
【実務ですぐ使える】AI作成文章を見抜く5つのチェックポイント
ここからは、実際に届いた応募書類(履歴書・職務経歴書・ES)に違和感を持った際、確認すべき5つのポイントを解説します。
1つ当てはまるだけでは断定できませんが、複数が当てはまる場合は「AI使用の可能性が高い」と考えられるため、面接で重点的に確認することをお勧めします。

1. 具体的なエピソード・固有名詞の欠如
AI文章の最大の特徴は「抽象度の高さ」です。
もっともらしいビジネス用語は並んでいますが、「具体的に何をしたか」が抜け落ちているケースが多く見られます。
【チェック点】
数字、固有名詞(ツール名、部署名、クライアントの属性など)が入っているか
【AIによくある例】
「業務プロセスを効率化し、チームの生産性を向上させました」
【人間らしい例】
「Excelのマクロを組んで集計作業を自動化し、月10時間の工数を削減しました」
2. 構成が「優等生」すぎて人間味がない
生成AI(特にChatGPT)は、基本的に「結論→理由→具体例→結論(PREP法)」などの模範的な構成で文章を出力します。文法的なミスや誤字脱字が全くない一方で、書き手特有の「癖」や「感情の揺れ」もありません。
【チェック点】
失敗談や苦労したプロセス、個人的な感情(悔しかった、嬉しかった等)が書かれているか
【判断基準】
完璧すぎる文章は、逆に疑う要素となります。人間が書く文章には、良い意味での「ノイズ(無駄な言葉や感情表現)」が含まれるものです。
3. 独特な言い回しや不自然な日本語
AI(特に海外製モデルをベースにしたもの)には、翻訳調の不自然な接続詞や、特定の単語を好んで使う傾向があります。これらが頻出する場合、AIが出力したテキストをそのまま貼り付けている可能性が高いです。
要注意!AIが好んで使うフレーズ例
| カテゴリ | 具体的なフレーズ | 特徴 |
|---|---|---|
| 動詞・名詞 |
刷新する・最大化する・最適化する・促進する・培う・尽力する・ | 意味は通じるが、日常会話ではあまり使わない堅苦しい言葉。 |
| 形容詞 | 多角的な・包括的な・革新的な・前例のない・シームレスな | 抽象的で、スケール感だけを強調する言葉。 |
| 接続詞 | さらに・しかしながら・したがって・また | 文頭に頻繁に使われる。日本語としては少し堅く、翻訳調の印象を受ける。 |
4. 文体や表記の不統一(コピペの痕跡)
「AIで生成した文章」と「自分で書いた文章」をツギハギした場合、文体や表記に不自然なズレが生じます。
【チェック点】
- 語尾の混在:「~です・ます」調の中に、急に「~だ・である」調が混ざっていないか
- フォント・書式のズレ:コピー&ペーストした際に、一部だけフォントサイズや種類(明朝とゴシックなど)が変わっていないか
- 記号の使い分け:カギ括弧「」とダブルクォーテーション“”が混在していたり、箇条書きのスタイルが急に変わったりしていないか
- 文章の温度感:急に文章のテンションが変わる箇所はないか
5. 企業情報の引用が一般的すぎる
志望動機に企業研究の深さが感じられないのも、AIが生成した文章によく見られる特徴です。 AIに「〇〇株式会社の志望動機を書いて」と指示すると、その企業のホームページにある「企業理念」や「トップメッセージ」の上澄みだけをさらったような内容が出力されがちです。
【チェック点】
HPのトップページを見れば誰でも分かるような内容(「貴社の〇〇という理念に共感し~」など)だけで構成されていないか
【ここを見る】
その企業が最近リリースした特定のサービスや、社員ブログの具体的な内容など、一歩踏み込んだ情報への言及があるか
表面的な理念の羅列は、AIによる自動生成の典型パターンです。
AI検知ツールの代表例と、導入時に知っておくべき「判定リスク」
前章で解説したチェックポイントをすべて目視で確認するのは、大量の応募書類を扱う採用現場では負担が大きくなります。そこで選択肢に上がるのが「AI検知ツール」です。ツールを導入することで一次スクリーニングの効率化は期待できますが、その判定結果をどこまで信じるべきかについては慎重に検討する必要があります。
ここでは代表的なツールと、運用上の注意点について解説します。
主要なAI検知ツール
現在、国内外で多くの検知ツールがリリースされています。採用現場でよく名前が挙がる代表的なツールを紹介します。
CopyContentDetector(CCD)
日本製のコピペチェックツールですが、AI生成テキストの判定機能も備えています。日本語特化でUIも分かりやすく、国内企業での導入実績が多いのが特徴です。無料版でも一定文字数までチェック可能です。
GPTZero
世界的に有名なAI検知ツールです。精度は非常に高いとされていますが、基本は英語圏のツールであるため、日本語の判定において若干の不安定さが残る場合があります。
ZeroGPT
シンプルで使いやすい無料ツールです。テキストを貼り付けるだけでAIの確率を表示してくれますが、簡易的なチェック向きです。
【重要】検知ツールを過信してはいけない理由
AI検知ツールを導入する際、最も注意すべきなのが「偽陽性(冤罪)」のリスクです。 ツールが「AI使用率100%」と判定したとしても、それが直ちに「不正である」とは限りません。理由は主に2つあります。
1. 「推敲」に使っただけでも検知される
これが最大のリスクです。候補者が自分でゼロから書いた文章であっても、最後にChatGPTで「誤字脱字を直して」「もう少し丁寧な表現にして」と修正(推敲)をかけた場合、ツールはこれを「AIが書いた文章」として検知する傾向があります。 前述の通り、推敲へのAI利用は推奨されるべきスキルです。ここを誤って排除してしまうと、優秀な人材を見逃す結果に繋がりかねません。
2. 日本語判定精度の限界
多くのAI検知モデルは、英語のテキストデータを中心に学習しています。日本語のような複雑な文法構造を持つ言語では、人間が書いた文章であっても、たまたまAIのような硬い表現を使っただけで「AI生成」と判定されるケースが散見されます。
あくまで「参考値(フラグ立て)」として扱う
検知ツールの結果は、あくまで「要確認フラグ」として扱いましょう。 「スコアが高いから不採用」と機械的に判断するのではなく、「スコアが高いから、面接でこの部分を重点的に深掘りしよう」と、次のステップの判断材料として活用するのが正しい運用方法です。
書類で見抜けなかった場合の「面接での見極め方」
書類選考やAI検知ツールをすり抜けた「AI作成書類」も、対面でのコミュニケーションで見抜くことが可能です。 AIで作られた文章は論理破綻がなく読みやすい一方で、「その人ならではの生々しい体験や具体的な記憶」が欠落しています。
面接官は、書類に書かれた内容の「解像度」を一気に上げるような質問を投げかけることで、それが「自分の言葉」なのか「AIからの借り物」なのかを容易に判別できます。
1. 書類の内容を「超具体的」に深掘りする
AIは「効率化しました」「関係各所と調整しました」といった概要を書くのは得意ですが、その背景にある「泥臭いプロセス」や「感情の動き」までは創造しきれません。 事実確認よりも、その時の「情景」や「感情」を問う質問が有効です。

AIあぶり出し!面接官用キラークエスチョン集
| 書類にある記述例 | AIかどうかを見抜く「深掘り質問」例 | 狙い |
|---|---|---|
|
「業務効率化に尽力しました」 | 「その際、具体的に誰と誰の間で意見が対立しましたか? その時、あなたはどう声をかけましたか?」 | 固有名詞や具体的な会話内容は、 AIには生成できない(実体験がないと語れない)。 |
| 「課題を解決しました」 | 「解決策を実行する中で、『もうダメかもしれない』と 一番焦った瞬間はいつでしたか?」 | AIは成功プロセスしか書かない。 「失敗への恐怖」や「焦り」といった負の感情は、 本人の記憶にしかない。 |
| 「コミュニケーション能力」 | 「苦手なタイプの人と仕事をする時、 あなたの心がざわつくのはどんな瞬間ですか?」 | 一般論ではなく、その人固有の「感情のトリガー」を 探ることで、人間性を確認する。 |
候補者がこれらの質問に対し、一般論(「やはり信頼関係が大事で…」など)で返してくる場合は要注意です。実体験があれば、「あの時は〇〇部長と意見が対立してしまい本当に困って…」といった生々しい話が出てくるはずです。
2. その場で思考させる質問を投げかける
AIを使って準備してきた候補者は、予め想定された質問にはスムーズに答えられます。 そのため、「その場で考えて答える力」を求めることで、本来の思考力や言語化能力を見極めることができます。
「ホワイトボード」を使った説明
「あなたが書類に書いているこのプロジェクトの体制図を、ここに書いて説明してもらえますか?」
AIの文章を丸暗記しているだけの場合、図式化(構造化)する段階で手が止まるか、論理が破綻します。
「このプロジェクト期間中の、あなたの『モチベーションの波(グラフ)』を書いて、なぜ上がったか・下がったかを説明してください」
AIは「常に前向きに取り組んだ」という平坦なストーリーを作りがちです。人間らしい「感情の起伏」と「具体的な出来事」がリンクしているかを確認できます。
「答えのない」未来予測
「今の業界トレンドを踏まえて、もし弊社が新規事業をやるなら何が良いと思いますか?」
過去のデータを学習するAIにとって、未来の推論は弱い領域です。候補者の「現在の視点」と「発想力」をダイレクトに見ることができます。
「もし明日、あなたがこの部署のリーダーになったとして、最初の1週間で具体的に何に着手しますか?」
「現状を分析する」といった抽象的なAI回答ではなく、「まず〇〇の数字を確認する」「〇〇さんと面談する」といった、実務経験に基づく具体的なアクションが出るかを見極めます。
AI時代の採用フローはどうあるべきか
生成AIの進化は止まりません。今後、応募書類のクオリティはさらに上がり、人間が書いたものと見分けがつかなくなる日が来るでしょう。 そのため、採用担当者に求められるのは、「AIを使った人を排除する(防衛)」ことではなく、「AIがあることを前提とした選考フローへのアップデート(適応)」です。

応募要項で「AIポリシー」を明示する
まず着手すべきは、自社のスタンスを明確にすることです。 現在、多くの候補者が「AIを使ったらバレて落ちるのではないか」「AIを使った方が有利なのではないか」という疑心暗鬼の中で書類を作成しています。
応募要項に以下のようないずれかのポリシーを明記することで、候補者との認識のズレを未然に防げます。
【AI利用禁止】
「個人の純粋な文章力を評価したいため、生成AIによる作成は禁止します」
【補助利用はOK】
「誤字脱字のチェックや構成案の作成にAIを利用することは問題ありませんが、最終的な文章はご自身の言葉で記述してください」
【AI活用を推奨】
「業務効率化のため、AIツールの積極的な活用を推奨します。ただし、面接ではその内容について深掘りします」
特にIT・Web業界では、「AIリテラシー」を評価対象に組み込む企業も増えています。
選考課題自体のアップデート
「書類選考(テキスト情報)」の信頼性が低下している以上、選考の比重を他の要素に移す必要があります。
ポートフォリオ・実績の重視
言葉よりも「何を作ったか」「どんな数字を残したか」というファクト(事実)をより重視します。
適性検査・実技テストの導入
SPIなどの適性検査や、エンジニアならコーディングテスト、ライターならその場での執筆課題など、AIが介入しにくい(または監視下で実施できる)テストの比重を高めます。
「AI活用力」を見るテスト
逆に「ChatGPTを使って、この課題を最短で解決してください」という課題を出し、プロンプトの精度や検証力を評価する方法も有効です。
【先進事例】大手企業が踏み切った「書類選考廃止」の決断
生成AIの普及を背景に、これまでの選考プロセスを抜本的に見直す企業も出てきています。 例えば、ロート製薬は2027年卒の新卒採用から「エントリーシートによる書類選考を廃止する」と発表しました。
【変更点】
書類選考をなくし、最初のステップから「人事担当者との対話(15分程度)」を実施
【背景】
生成AIの普及によりES作成の手軽さが高まる中、文章情報だけでは候補者一人ひとりの本質的な個性を捉えきれないと判断したため
これは非常に大胆な決断ですが、今の時代において理にかなった一手とも言えます。 「AIで作成可能な書類」に頼るのではなく、初期段階から「対話」にリソースを割く。この事例は、今後の採用フローが「文章重視」から「対話・実体験重視」へとシフトしていく可能性を強く示唆しています。
参考:ロート製薬、新卒採用の書類選考を廃止 生成AI普及でES均質化|日本経済新聞
まとめ
生成AIの登場は、私たちに「人間の価値とは何か」を改めて考えるきっかけを与えてくれました。 本記事で紹介した見極め術は有効ですが、それはあくまでスタートラインにすぎません。これからの採用で真に評価すべきは、AIを排除することではなく、AIという強力なツールを使いこなす「賢さ」と、AIには表現しきれない「人間味」を兼ね備えた人材です。
書類上の整った文章よりも、対話の中で垣間見える不器用な熱意や葛藤にこそ、採用のヒントは隠されています。AI時代だからこそ、データではなく「人」と向き合う。その泥臭い地道なプロセスこそが、ミスマッチを防ぐ最も確かな方法になるはずです。
