【この記事でわかること】
- 人事・採用業務を劇的に効率化する具体的なAI活用術と「神プロンプト」
- AIを「思考の拡張ツール」として使いこなす松本様独自のカスタム術と哲学
- AI活用をこれから始める人事担当者へ向けた、実践的で前向きな第一歩のヒント
イントロダクション:AIスタートアップ人事が語る、これからのHR
有薗:本日はお忙しい中、ありがとうございます。松本さんは現在、AIスタートアップ企業でHR、特に人事を担当されていると伺っていますが、ご自身のキャリアと現在の業務について、簡単にご紹介いただけますでしょうか?
松本:はい、ありがとうございます。AIスタートアップ企業では現在人事として、特にビジネス職の採用と人材開発、組織開発の2つの側面を担当しています。現職は2024年10月に入社し、まだ9ヶ月ほどになりますが、それ以前は10年半、人材業界にいました。以前は労働集約型のビジネスに身を置いていましたが、現在は本格的にAI活用を進めています。今でこそAI活用は当たり前ですが、入社前の私は結構アナログな人間でした。
有薗:なるほど、労働集約型ビジネスからAI最先端のスタートアップへ、劇的なキャリアチェンジですね。
AIは「ChatGPT一択」
有薗:早速ですが、松本さんが普段の業務で使われているAIツールは何になりますか?
松本:私はもうChatGPT一択ですね。正直なところ、まだ生成AIのリテラシーがそこまで高くないので、ツールを使い分けるほど使いこなせていないという感覚です。ただ、私がやりたいことは全てChatGPTで実現できていますし、これからもChatGPTを極めていきたいと思っています。
有薗:世の中には色々なAIがありますが、ChatGPT一本に絞るというのは興味深いですね。その理由は何でしょうか?
松本:一番はやはりユーザーインターフェースが分かりやすいことですね。そして、世の中に出回っている情報が圧倒的に多かったことも大きいです。初心者にとって、情報が豊富なChatGPTは非常に導入しやすかったですし、長く使っていても全く不満はありません。人事担当者でAI活用が進んでいない方には、まずはChatGPT一本で始めるのが良いと私は思います。
仕事が劇的に変わる!松本様の「神プロンプト」活用術
有薗:松本さんの業務で、ChatGPTが特に活躍しているシーンを2、3ご紹介いただけますか?具体的なプロンプトももし可能であれば教えていただきたいです。
AIを活用した面接での人物評価
松本:もちろんです。まず一つ目は、私が独自に開発・運用している「面接アシストくん」です。私は一次面接を担当しており、候補者のスキルではなく人物面、つまり「自社に合っているか合っていないか」を評価しています。面接の質問項目はほぼ固定化していて、面接中に取ったメモのテキストをChatGPTに入力し、「この人物像をどう思うか」とフラットな意見を聞いています。所属企業やスキル等のハードスペックによるバイアスを入れたくないので、あくまで面接で聞いたことのみを入力しています。
有薗:具体的にはどのようなプロンプトが使われているのでしょうか?
松本:私が試行錯誤を重ねて開発しているノウハウのため全てはお伝えできませんが、基本的なプロンプトの冒頭部分はお伝えできます。
「あなたはプロフェッショナルな面接官です。与えられた面接メモをもとに、候補者を人物面から総合的に評価し、「採用すべきか否か」を客観的かつ論理的に判断してください。面接官本人の意見に影響されず、あなた自身の見解を率直に述べてください。」
ChatGPTは言葉や入力された文字の解析が非常に得意なので、「この文面上、この人はこういう人である可能性が高い」「一つ一つの説明はしっかりしているけど、総じてみると辻褄が合わない」といった言語化しにくい印象を明確にしてくれます。
これにより、私の主観的な判断の偏りを抑え、より客観的に合否を判断できるようになりました。可能な限り自分の主観、好き嫌いを入れないように判断しようとしていますが、そうもいかない時もあるので…
有薗:これは人事の皆さんにとって非常に参考になるはずです。最近話題のAI面接サービスではなく、選考のアシスタントとしてAIを活用されているのは、なぜですか?
松本:面接は企業が候補者を選ぶ場であると同時に、候補者も企業を選ぶ場だと考えています。AI面接官だと、候補者が「この会社めっちゃいい!」とは感じにくいと思うんです。だからこそ、一時面接は私のような人間が担当し、しっかりと対話することで、「選ばれる側」としての企業の姿勢を示すことを意識しています。AIはあくまでそのサポート役として活用しています。
AIでSNS投稿文を作成
松本:二つ目は、SNSの発信です。私はまずX(旧Twitter)で140字程度で伝えたいことを書きます。それを元に、LinkedInやYOUTRUST、Facebookなど、他のSNS媒体向けに加工してもらうんです。 プロンプトは非常にシンプルです。
「X用に作成した下記内容をYOUTRUSTとLinkedIn用に加工してください。」
元の意図を汲み取りながら、私らしい言葉で各媒体に合わせた文章を作成してくれます。最終的に少し修正するだけで、複数のSNSで情報拡散できるので、情報発信を増やすことにおいて非常に役立っています。
もっと便利に。私の「AIカスタム術」
有薗:ご自身の言葉でコンテンツの土台を作り、AIに拡張させるという使い方は、まさに「AIカスタム術」ですね。特に「面接アシストくん」のチューニングはどのように行っているのでしょうか?
松本:チューニングは、企業が求める人材像、つまり採用基準を明確に設定することから始めます。
AIはその評価基準と照らし合わせて判断してくれるのですが、この評価基準の立て方が非常に難しいんです。私も「面接アシストくん」を運用しながら、何度も試行錯誤を繰り返してチューニングしています。
例えば、「私はこの人を採用すべきだと思ったがAIは違う」「私は採用すべきでないと思ったがAIは採用すべきだ」といった乖離があった場合、なぜその判断になるのかを検証し、条件設定を調整していきます。もちろんAIの判断が適切だと思ったときは、自分の見解を改めます。
AIに全てを任せて0から作らせると、どうしてもオリジナリティやリアル感のないものが出来上がってしまうと感じています。コンテンツが溢れる現代において、「人肌感」や「人間らしさ」が非常に重要だと考えているので、私は常に元のアイデアや下書きを自分で作るようにしています。SNSの発信も、まずXの投稿を下書きとして自分で作成し、それをAIに拡張してもらいます。
失敗から学ぶ、AI活用の「マイルール」
有薗:AI活用を推し進める中で、松本様ご自身が大切にしている「マイルール」や、これからAI活用を始める方へのアドバイスがあれば教えてください。
松本:人事にとって、これからは「これはAIがやるべき、これは人がやるべき」という業務の切り分けが非常に重要になると考えています。AIが進化する中で、エンジニアが以前よりもコードを書かなくても良くなる時代が来ているように、人事も業務効率化の意識を持つ必要があります。だからこそ、私自身も生成AIエンジニアコースに通い、AIでできること、できないことを深く理解しようとしています。
AI活用に踏み出せない人事担当者の方々には、まず「いつでも相談できる賢い壁打ち相手」としてAIを使ってみることから始めることをお勧めします。会社の業務に大きく導入しようと考えるのではなく、まずは自分の仕事、自分の業務をより良く、より効率的に、より精度を上げるための「思考の壁打ち相手」として活用するイメージです。
自転車に乗れないと遠くへ行けないのと同じで、まずはAIに「乗れるようになる」ことが大切です。世の中に出回っている、大規模なAI導入事例から入ろうとすると、その「距離」が遠すぎて挫折しがちです。まずは自分の手元の業務をより良くする、身近な良きパートナーとして使ってみるのが良いと思います。
そして、AIに業務を任せるためには、自分の中でその業務を言語化できていなければなりません。人間は「見て覚えろ」でできるかもしれませんが、AIは言葉にして落とし込まないと動いてくれません。AIが動くということは、自分がその業務を深く理解している証でもあるのです。
まとめ:AIは「思考を拡張するパートナー」
有薗:本日は貴重なお話をありがとうございました。松本様のAI活用術は、人事担当者が「これなら自分にもできそう!」と一歩踏み出す大きなヒントになると思います。最後に、読者の皆様へメッセージをお願いします。
松本:AIは、決して人間から仕事を奪うものではなく、私たちの思考を拡張し、生産性を劇的に高めてくれる強力なパートナーです。まずは恐れずに、身近な業務からAIとの対話を始めてみてください。あなたの業務効率と生産性を大きく向上させ、人事としての新たな価値創造につながるはずです。