AI時代の競争優位は"暗黙知のデータ化"にあり!急成長スタートアップと大企業、両極のキーパーソンが語る組織実装術

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「AIを導入したものの、現場で全く使われない」「どうすれば組織文化にまで浸透させられるのか」。多くの企業が抱えるこの課題に応えるべく、歴史ある食品メーカーである日清食品ホールディングスと、急成長を遂げるスタートアップ企業LayerXの全く異なる背景を持つ2社が登壇。両社のAI推進キーパーソンが、組織を動かすためのリアルな戦略、そしてAI時代の競争力の源泉について、具体的な実践ノウハウを語り尽くしました。

お話を伺った方々

日清食品ホールディングス 執行役員・CIO
成田 敏博 様

アクセンチュア、DeNA、メルカリといったIT企業の最前線を経て、約5年半前に日清食品へ。非IT企業である同社をデジタルで変革すべく、CIOとして辣腕を振るう。特にChatGPT登場以降、経営トップの強力な後押しのもと、AI活用を強力に推進。大企業における変革のリアルを知り尽くす実践者。

株式会社LayerX CEO室 HRMグループ 事業責任者
吉田 達揮 様

HR Tech業界でキャリアを積み、現在は急成長スタートアップ企業のLayerXにて人事労務領域のサービス事業責任者を務める。法人向けSaaS「バクラク」シリーズの展開と並行し、社内でも最先端のAI活用を推進。スタートアップならではのスピード感で組織と事業をアップデートし続けている。

Almoha共同創業者COO / Startup Culture Lab.所長(モデレーター)
唐澤 俊輔 様

スタートアップを中心に組織づくりの支援を手掛ける組織カルチャーの専門家。多様な組織の成長を見てきた経験から、AIが組織や文化に与える影響について、両社のキーパーソンからリアルな実践知を引き出していく。

AI活用、最初の一歩はどこから? 成功の鍵は「やる気のある部門」にあり

唐澤:AIを全社に導入する際、最初のきっかけとして、どのような領域から始めるのが効果的でしょうか?

成田:当社では、特定の領域にフォーカスして短期間で成果を上げ、それを横展開していくやり方を取りました。具体的には「営業」です。
理由はシンプルで、経営トップがAIの効果を語る際に、必ず営業組織の生産性向上を挙げていたからです。営業のトップもそれを聞いているので、「自分たちの組織をなんとかしたい」と強いオーナーシップを持ってくれたんですね。
これはAIに限りませんが、変革を進める上で現場のオーナーシップはとても大事です。現場がやる気になってくれているか否かで、天と地の差があります。やる気になってくれている部門と連携することが、進め方の鉄則ですね。

吉田:我々は、まずはお客様への提供価値と社内生産性の両方にインパクトがある領域を狙いました。具体的には、営業やカスタマーサクセスといった顧客接点のチームです。
弊社の「バクラク」はプロダクトが多岐にわたるため、全ての知識を人間が覚えるのは大変です。そこで、社内のヘルプ情報などをデータベース化し、AIに質問すればすぐにお客様に回答できるようにしました。
これにより、お客様に素早く正確な情報を提供できるようになっただけでなく、営業担当が開発部門に仕様確認をする社内問い合わせも激減。結果として、エンジニアが開発に集中できるようになり、会社全体のスピード向上にも繋がっています。

小さな成功をどう広げる? AI推進は「社内マーケティング」が9割

唐澤:なるほど、まずは成果を出しやすい部門に絞るのが定石なのですね。その最初の小さな成功を、どうやって全社的なムーブメントに育てていったのでしょうか?

成田:うまくいきそうであれば、先んじて「うまくいっているようにみせていく」ことです。
どこまでいったら成功かなんて待っていたらクイックに動けません。変化の兆しが見えたら、それをストーリーにして、社内報などを使って積極的に「社内マーケティング」を仕掛けます。
さらに効果的なのが、外部のメディアも活用することです。対外的に「うちはこんな取り組みをしています」と発信すると、社外の方々が社内の人間に「あれ、どうなってるの?」と聞いてきてもらえることがあります。この”外から聞こえてくる情報”も活用して、様々な部門が「うちもやらなきゃ」と重い腰を上げるきっかけを作っていくのです。

吉田:スタートアップである我々の場合は、より直接的にカルチャーや制度に落とし込んでいきました。
もともと「Bet Technology」という行動指針があったのですが、これを明確に「Bet AI」という言葉に変えました。さらに、社内のバリュー項目の一つに「AIをまず試す」を加え、四半期ごとの評価でもAIを活用した社員を適切に評価する仕組みも導入しています。
会社として「私たちはAIに本気で賭けるんだ」という方向性を明確に打ち出すことで、全社員の意識をAI活用へと強く方向付けています。

「プロンプト書きたくない問題」と「AI思考停止」ー 浸透後の新たな壁

唐澤:AIの利用が当たり前になってくると、また新たな課題も出てくるかと思います。皆さんの組織では、どのような壁に直面していますか?

成田:初期に直面した大きな壁が2つあります。まず、ツールを解放しても利用率が10%にも満たなかったことです。原因は「プロンプトの書き方が分からないからだ」と考え、研修を実施したのですが、状況は変わりませんでした。
ただよく考えてみたら、私自身もゼロからプロンプトなんて書きたくないんです(笑)。
そこで、誰か一人が業務に合わせて作り込んだ「プロンプトテンプレート」を全員で共有する仕組みにしました。既存のテンプレートを少し修正するだけで使える手軽さが受け、利用率は7割近くまで一気に上がりました。
もう一つの壁は「管理職」です。「AIは間違いを言うから危ない」と考える管理職がいるチームは、やはり利用が進みません。そこで今、管理職向け研修で「メンバーにAIを活用させることがマネージャーの仕事である」と意識改革を徹底しています。

吉田:我々の組織で直面したのは、「AIによる思考停止問題」です。AIに聞いた内容をそのまま自分の意見として持ってきたり、AIが作っただけの資料を提出したりするケースですね。
AIに考えさせるのは良いのですが、最終的なアウトプットに対する自分の考えがなければ、その人の介在価値はありません。
そのため、社内では「"Bet AI"は『AIにかける』ということであって、『AIに委ねる』ではない」というメッセージを繰り返し伝えています。AIの答えはあくまでインプット。それを受けて自分がどう考えたか、という部分を最も重要視しています。

AI時代の競争優位はどこにある? 答えは「マイスターの頭の中」

唐澤:AIモデル自体の性能が上がり、誰もが使えるようになると、企業の競争力はどこから生まれるのでしょうか?

成田:間違いなく企業の競争力の源泉は「データ」です。それも、ただのデータではありません。AIのモデルはベンダーさんが進化させてくれますが、我々がコントロールでき、他社が真似できないのは、AIに食べさせる独自の社内データです。
特に重要視しているのが、これまでデータ化されてこなかった「暗黙知」です。
例えば、食品開発には「マイスター」と呼ばれる専門職がいます。彼らが持つ「どの具材をどう組み合わせれば、こういう味や食感が生まれるか」という知見は、まさに暗黙知の塊です。最終的に完成したレシピのデータも重要ですが、本当に価値があるのは、そこに至るまでの無数のトライ&エラーの過程です。
今、その研究開発の様子を録画・録音し、AIに自動でデータ化させる取り組みを始めています。この「暗黙知データベース」が完成すれば、製品開発のクリエイティビティは飛躍的に向上するはずです。

最後に、AIと共に働く未来を創る方々へのメッセージ

唐澤: 非常に刺激的なお話をありがとうございました。最後に、これからAIを組織に実装していこうとされている方々へ、メッセージをお願いいたします。

吉田:『AIを使う人』は増えましたが、これからは『AIを作る人』になることが重要だと思っています。社内のちょっとしたワークフローを自動化するようなアプリは、もうエンジニアでなくても作れる時代です。ぜひ皆さんもAIを『作る』ことを楽しみながら、最終的に我々もそれをプロダクトとして世の中に届けていきたいと思っています。

成田:今日できたことが明日には当たり前になる、そんな世の中の前提が大きく変わる時代にいられることを、本当に幸せに感じています。うまくいかないことも多いですが、私自身はその変化を楽しんでいます。皆さんも組織を牽引する立場として大変なこともあるかと思いますが、この変革の時代を一緒に楽しんでいきましょう。

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