「AIをメンバーに迎える時代」の組織論。スタートアップの最前線から学ぶ、これからの採用・育成・チーム作りのイメージ写真

「AIをメンバーに迎える時代」の組織論。スタートアップの最前線から学ぶ、これからの採用・育成・チーム作り

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「AIの活用を進めたいが、何から手をつければいいか分からない」 「AIによって、社員に求める役割や採用基準はどう変わるのか?」

AIという避けては通れないテーマに対し、多くの人事担当者や経営者が期待と不安を抱えています。

2025年8月5日、東京・赤坂にあるINTLOOP本社内のカフェスペース「Cafe INTLOOP」にて、INTLOOP Venturesとプロトスター株式会社の共催によるイベント『IVIC community event vol.1』が開催されました。

スタートアップ関係者やAI活用に関心の高いビジネスパーソンが集い、パネルディスカッション「AI時代のスタートアップ 〜AIはスタートアップの何を変えたのか〜」がスタート。登壇したのは、仮想OJT×AIメンター事業『amoibe OJT』を展開する株式会社amoibe代表の新條 隼人氏と、国内で最もAI駆動化されたVCを自負するHAKOBUNEのFounding Partner、栗島 祐介氏。モデレーターはプロトスター株式会社代表の前川 英麿氏が務めました。

本レポートでは、白熱した議論の様子を、登壇者の生の発言を交えながら余すところなくお届けします。「AI時代の組織」を考える上で、人事担当者が見るべきポイントとは何か。最前線のリアルな声に、ぜひ耳を傾けてみてください。

第1章:AIは「ツール」ではない。「マーケットのルール」を変えるゲームチェンジャー

最初のテーマは「AIの活用状況」。しかし、話は単なる業務効率化ツールの導入事例には収まりませんでした。AIがビジネスをどう変えているのか、という本質的な議論からイベントは幕を開けます。

新條氏:「スタートアップがAIを活用する目的は様々ですが、最も影響が大きいのは『マーケット』です。私たちの事業領域であるSI産業では、日本のエンジニアの約7割が従事し、その多くが保守・運用といった下流工程にいます。この領域は、開発支援AIに代替される可能性が非常に高い。これはカードゲームの大富豪で言えば『2』をたくさん持っていたのに革命が起きて一気に弱くなるような、まさに『イノベーションのジレンマ』が起きる市場です。」

単に開発を効率化する(=良いカードを使う)のではなく、AIによってルールが激変する市場(=革命が起きた戦場)に飛び込むことこそが、最大のチャンスだと新條氏は語ります。

この視点に、栗島氏も大きく頷きます。

栗島氏:「現在のAIがもたらす最大のインパクトは、開発はもちろんですが、それ以上に非エンジニアの方々が業務フローなどを細かく実装できるようになった点です。これが大きな革命です。逆に、組織が硬直化した大企業や先行スタートアップは、AIを活用しているように見えても単なる『効率化』に留まり、組織全体をAI駆動型に切り替えるまでには至っていません。だからこそ、シード期のスタートアップにとっては非常に有利な状況なのです。」

先行者の成功体験が、次の時代の変化に対応する上での足枷となる「リープフロッグ現象」が至る所で起きている、と両氏は指摘します。大手だけでなく、少し前の常識で成功したスタートアップでさえ、OpenAIのモデルアップデート一つで事業が陳腐化するケースも出ているという厳しい現実も語られました。

まず考えるべきは「AIで何ができるか?」ではなく、「AIによって自社の事業領域はどう変わるか?」という視点です。自社は革命後の世界で「強くなる側」なのか、それとも気づかぬうちに価値を失う「食われる側」なのか。この問いを持つことが、AI時代の人事戦略の第一歩と言えるでしょう。

第2章:「PM不足」時代到来。開発現場のリアルと、求められる人材の変化

生成AIは、プロダクト開発のあり方も根底から覆しています。

新條氏:「ウォーターフォール開発の工程のうち、少なくとも『設計』以下の工程は劇的に速くなりました。何を創るかが決まった後、それを形にするスピードは10倍、いや100倍くらいになったかもしれません。DeNAさんが『パワポではなくDevinで持ってこい』と言っているように、プロダクトマネジメントのあり方も変わってきています。」

この開発の高速化は、新たなボトルネックを生み出しました。それが「PM(プロダクトマネージャー)不足」です。

栗島氏:「開発スピードが上がりすぎた結果、PMがボトルネックになっています。以前はPM1人に対してエンジニア10人という体制が普通でしたが、今ではエンジニア0.5人に対してPM1人くらいの比率が求められるようになり、『AI PM』を創ろうという話まで出てきています。」

新條氏:「私たちが支援している大手SIerのPMの方々が最も悩んでいるのは、『顧客の業務要件やビジネス課題を同じ目線で理解できないこと』です。AIによって『創ること』の価値が相対的に下がり、『顧客のことに詳しい』人材の価値が上がっています。そうなると、エンジニアのライバルはビジネス職になってくる可能性すらあります。」

コンサルティングファームが強みを発揮し、今後はFigma Dev ModeのようなツールをITコンサルタントが使うようになるだろう、という未来像も語られました。技術力以上に「顧客の課題を定義する力」が問われる時代が到来しているのです。

人事担当者にとって、これは採用・育成戦略の大きな転換点です。従来のエンジニア採用に加え、「顧客解像度の高いPMをどう確保し、育てるか」が最重要課題となり得ます。事業部門のエース人材に開発の知見を学んでもらう「リスキリング」や、ビジネス上流を担える人材の獲得が、企業の競争力を左右する鍵となりそうです。

第3章:「AIをメンバーに迎える」。これからのチーム作りと採用の新常識

議論は核心である「チーム作り」へ。AIを前提とした組織は、どのような形になるのでしょうか。

新條氏:「組織図において、AIを『1人のメンバー』としてカウントするポジションが増えるでしょう。基本的に、私たちの会議は全て録音し、データを蓄積しています。AIに働いてもらう経営、そのための情報共有という概念は、今年に入って一気に広がったと感じます。」

栗島氏:「既存の組織構造は、AIによって細分化された業務フローに対して大きすぎます。だからこそ、ソロプレナー(一人起業家)が増えているように、プロジェクトごとに人が集まる『ハリウッド形式』のような働き方が主流になっていくのではないでしょうか。」

採用においては、「ポテンシャル採用でない限り、ジュニア層の方をスタートアップが採用する理由は見出しにくくなっている」という厳しい現実も語られました。

では、人は不要になるのか? 両氏はそれを強く否定し、むしろAI時代だからこそ「人間」の価値が高まると逆説的に語ります。

新條氏:「この流れに逆行するようですが、私は『採用します』。やるべきこと、他社にやられたくないことが山ほどある。AIをフル活用してもなお、人が足りない状況です。そして、チームの勢いやカルチャーを創り、仲間をエンパワーメントできるのは、やはり『人』の役割です。不思議な感覚ですが、『ブルシット・ジョブ(どうでもいい仕事)』をAIに任せることで、チームにとって本当に価値のある、楽しい時間が増えていくのではないでしょうか。」

栗島氏:「今から起業する若者にアドバイスするなら『友人と一緒に住んで合宿しろ』と言いますね。一緒に住み、一緒に食事しながら開発しまくる。その熱量こそが、初期のスタートアップには必要です。仕事はAIに任せ、自身はコミュニケーション能力を最大限に発揮してチームのモチベーションを高める、という役割の人がいてもいいかもしれない。」

AIは、私たちを単純作業から解放し、人間にしかできない「チームの熱量(モメンタム)を生み出す」「仲間と喜びを分かち合う」といった本質的な活動に時間を使わせてくれるパートナーになり得るのです。

 人事の役割は、単なる労務管理や採用業務から、「AI時代における企業カルチャーの醸成」や「社員エンゲージメントの向上」へとシフトしていくでしょう。「AIという新メンバー」と既存の社員がどうすれば最高のパフォーマンスを発揮できるチームになれるのか。その設計こそが、これからの人事の腕の見せ所です。

第4章:質疑応答から見えたAI活用のリアル

会場の参加者を交えた質疑応答では、さらに踏み込んだ議論が展開されました。 「AIを使って日常業務はどう変わったか?」という質問に対し、両氏の回答は具体的でした。

栗島氏:「起業家との面談プロセスの9割以上を自動化しました。AIが事前に情報を評価し、私が聞くべき論点をまとめてくれる。生産性は劇的に向上しました。」

新條氏:「『自分の強みは何か』を考える時間が増えました。商談の準備など、これまで自分でやらなければならなかったことをAIに『背中を預けられる』ようになった。結果的に、AIとの向き合い方が深まっている気がします。」

おわりに

AIは、私たちから何を奪い、何を与えてくれるのか。イベントの最後に、両氏はこう締めくくりました。

新條氏:AIは『世の中の変え方のルール』そのものを変えました。そのための教科書がまた新しくなった。そういうクリティカルな変化が起きています。」

栗島氏:AIは、『人間を超える知性』として現れました。私たち一人ひとりが、彼らとどう付き合っていくかを考える良いきっかけなのではないでしょうか。」

AIを単なる効率化ツールとしてではなく、組織や事業、そして自分自身の働き方を根本から見直す「触媒」として捉える。今回のイベントは、AI時代を生き抜くための、そんな力強いメッセージを私たちに投げかけてくれました。

あなたの会社では、AIという新しいメンバーを、どう迎え入れますか?

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