1. 「成果ゼロ」は珍しくない。独立した3つの調査が示す同じ結論
⚠️ 注記: 本記事で紹介する調査は、いずれも2025年に発表された海外(主に北米・欧州)の調査・予測であり、対象や定義(生成AI全般/AIエージェント限定/AI施策全般)もそれぞれ異なります。日本の中小企業に直接あてはまる数字ではない点をご留意のうえ、傾向として読んでください。最新の調査結果は各出典元でご確認ください。
「AIを導入したが、成果が測れない」——この感覚は、思い込みではなく、複数の独立した調査が裏づけています。
- MIT(メディアラボ系の研究チームNANDA)が2025年8月に発表した「The GenAI Divide: State of AI in Business 2025」という調査によると、企業の生成AIパイロット導入のうち約95%が、測定可能な成果(損益への影響)を出せていないと結論づけています。この調査は、150件のリーダーへのインタビュー、350人の従業員調査、公開されている300件のAI導入事例の分析をもとにしたものです。
- Gartnerは2025年6月25日のプレスリリースで、2027年末までにエージェンティックAIプロジェクトの40%超が中止されると予測しました。理由として、コスト超過、不明確なビジネス価値、不十分なリスク管理を挙げています。この予測は、2025年1月に実施したウェビナー参加者3,412人への調査が根拠です。
- S&P Global(451 Research)が2024年10〜11月に北米・欧州のIT/事業責任者1,006人を対象に行った調査では、AI施策の大半を中止する企業の割合が、2024年の17%から2025年には42%へ急増したことがわかりました。さらに、PoC(試験導入)の平均46%が、本番化する前に廃棄されているとも報告しています。
この3つの調査は、調査主体も、調査対象も、調査方法もまったく異なります。MITは生成AI全般のパイロット導入について、Gartnerは「AIエージェント」に絞ったプロジェクトの中止予測について、S&P GlobalはAI施策全般の中止・放棄状況について調べたものです。それぞれ指している対象は微妙に違いますが、「導入自体は広がっているのに、成果や本番化の手前で止まってしまう」という同じ構造が、独立に3回、別々の形で確認されたことになります。この話は日本でも日経ビジネスが取り上げるなど、注目を集めています。
2. なぜ失敗するのか。共通する3つのつまずき

では、なぜこれほど多くの導入が成果に結びつかないのでしょうか。各調査を読み解くと、共通するつまずきが見えてきます。
① 目的とビジネス価値があいまいなまま導入している
Gartnerが挙げる中止理由の筆頭は「不明確なビジネス価値」です。「AIエージェントを入れること」自体が目的化してしまい、「何を、どれだけ改善するために入れるのか」というKPIが最初から曖昧なまま進めてしまうケースが多いということです。目的がぼやけていれば、当然、成果も測れません。
② 社内での自社開発に、過度に依存している
MITの調査で特に目を引くのが、外部ベンダーと連携して導入した企業は約67%が成功しているのに対し、社内で自社開発した場合の成功率は、その3分の1程度にとどまるという結果です。AIを業務に統合するには、データ整備・評価設計・運用監視といった地道な作り込みが必要ですが、これを社内の担当者だけで抱え込むと、専門知見や工数の不足から、成果が出る前に息切れしてしまいやすいのです。
③ 汎用ツールを、そのまま業務にあてはめてしまう
MITの調査が指摘する核心は、「モデルの性能が足りないのではなく、企業側の学習・統合が追いついていない(learning gap)」という点です。汎用的なチャットボットは、個人が自分の作業に使う分にはとても便利ですが、企業ごとに異なる業務フローにそのまま乗せようとすると、うまく適応せず、効果が頭打ちになります。さらにGartnerは、「実質的なエージェント機能を持つベンダーは、数千社のうち約130社程度しかなく、残りの多くは既存製品を“AIエージェント”と呼び替えただけの再ブランディング(agent washing)にすぎない」とも指摘しています。看板だけ変わったツールを、既存の業務プロセスにそのまま当てはめても、成果は生まれにくいということです。
3. 成功している企業は何が違うのか

失敗のパターンが見えてくると、逆に「成果を出している企業は何をしているか」も見えてきます。MITの調査からは、2つの示唆が読み取れます。
1つ目は、外部の専門知見と組んでいることです。前述のとおり、外部ベンダーと連携した導入は約67%が成功し、社内自社開発の3倍近い成功率でした。AIの実装は、モデルを選ぶことよりも、既存の業務・データ・システムに合わせて作り込み、評価・監視の仕組みまで整えることに手間がかかります。ここに外部の実装経験を借りることが、成果への近道になっているようです。
2つ目は、投資先を「地味だが効く場所」に向けていることです。MITの調査では、多くの企業の予算が、目立ちやすい営業・マーケティング向けのツールに集中する一方、実際にROI(投資対効果)が最も高かったのは、バックオフィスの自動化(外部委託業務の代替や、委託費の削減につながる領域)だったと報告されています。派手な用途から入るのではなく、まず地道な業務で成果を積み上げることが、結果的に成功率を高めているのです。
4. 中小企業が陥りやすい罠と、今日からできる3つのチェック
ここまでの調査は北米・欧州の企業が中心ですが、指摘されている構造は、日本の中小企業にも当てはまりやすいものです。特に注意したい3つの罠を、チェック形式で整理します。
罠1:「うちも導入しないと」という焦りで、目的があいまいなまま始めてしまう
チェック: 「このAIエージェントで、何を・どれだけ改善するか」を、数字で説明できますか。説明できないまま導入が先行していないか、一度立ち止まって確認してみてください。
罠2:熱心な担当者一人に、企画から実装・運用まで全部背負わせてしまう
チェック: データ整備・効果測定・継続的な監視まで、社内の一人(または一部署)だけで回そうとしていませんか。前述のとおり、社内自社開発だけに頼ると成功率は下がりやすい傾向があります。外部の実装経験を借りる選択肢を検討する価値があります。
罠3:華やかな用途を優先し、地味だが効果が出やすい業務を後回しにしていませんか
チェック: 導入の優先順位が「話題性」や「見栄え」で決まっていませんか。バックオフィスなど、地味でも効果測定がしやすい業務から着手するほうが、結果的に投資対効果を証明しやすくなります。
5. 【本題】小さく、測れる場所から。導入を成果に変える伴走という選択
これらの調査が示しているのは、「AIエージェントが使えない」ということではありません。MITの言葉を借りれば、問題はモデル性能ではなく、企業側の「学習・統合の力」が追いついていないことにあります。であれば、打ち手ははっきりしています。目的とKPIを最初に明確にすること、小さく測れる業務(特にバックオフィス)から始めること、そして社内だけで抱え込まず、実装経験のある外部と組むことです。
とはいえ、「目的の言語化」「評価設計」「既存システムとの連携」「導入後の運用監視」を、自社だけで一つひとつ形にしていくのは簡単ではありません。多くの企業が、まさにこの作り込みの部分でつまずいて、前述のような「成果ゼロ」の側に回ってしまいます。
私たちが提供している「Protostar AI Works」は、目的設定からKPI設計、業務への実装、導入後の定着までを、現場に入り込んで一緒に進める伴走型の支援です。調査が示す「外部と連携した企業ほど成果が出やすい」という傾向に沿って、社内だけで抱え込まず、成果につながる形でAIエージェント・生成AIの導入を進めたい企業のお手伝いをしています。まずは、小さく測れる場所から。それが、成果に結びつく導入の第一歩です。
まとめ
「AIエージェントを導入したのに成果が出ない」という感覚は、決して珍しいものではありませんでした。
- 実態:MIT調査では生成AIパイロットの約95%が測定可能な成果を出せず、Gartnerはエージェンティックプロジェクトの40%超が2027年末までに中止されると予測、S&P Globalの調査ではAI施策を大半中止する企業が2024年17%→2025年42%へ急増
- 失敗の構造:目的とビジネス価値の曖昧さ、社内自社開発への過度な依存、汎用ツール・agent washingをそのまま業務に当てはめること
- 成功企業の共通点:外部の専門知見と連携している(成功率は社内自社開発の約3倍)、そして地味だが効きやすいバックオフィス業務から着手している
- 打ち手は明確——目的を数字で言語化し、小さく測れる場所から始め、社内だけで抱え込まないこと
まずは自社の導入計画が、この3つのチェックに当てはまっていないか確認してみてください。そのうえで、目的設定から実装・定着までを一緒に進めてくれる相手と組むことが、「成果ゼロ」を避け、投資を確かな成果に変える近道になります。
⚠️ 本記事で紹介した調査・数値は、執筆時点(2026年7月)で確認できた各機関の公表資料に基づく概要です。調査ごとに対象・地域・定義が異なり、最新の数値や続報は各出典元でご確認ください。
出典・参考
本記事の数値は、以下の海外調査・公表資料に基づきます。原典もあわせてご確認ください。
- MIT NANDA「The GenAI Divide: State of AI in Business 2025」(2025年8月発表)の報道
- Fortune記事
- Forbes記事
- Gartner「Gartner Predicts Over 40% of Agentic AI Projects Will Be Canceled by End of 2027」(2025年6月25日プレスリリース)
- Gartner公式
- S&P Global Market Intelligence(451 Research)の調査
- CIO Dive記事
- S&P Globalレポート
- 日経ビジネス「AIエージェント『95%が成果ゼロ』の衝撃」(日本語報道)
- 日経ビジネス記事
※各調査は対象・地域・定義が異なります(例:MITは生成AI全般のパイロット導入、Gartnerはエージェンティックプロジェクトの中止予測、S&P Globalは北米・欧州のAI施策全般)。いずれも北米・欧州中心の調査であり、日本企業の比率は明らかではありません。数値を引用する際は、各原典の調査条件をご確認ください。

