1. 2つの新モデルは何が違うのか。録音済み vs リアルタイム
⚠️ 本記事は執筆時点(2026年7月)の公式情報に基づく概要です。料金・仕様・提供範囲は変わり得るため、導入前には必ずOpenAI公式の最新情報をご確認ください。発表日は「2026年7月28〜29日」とタイムゾーンにより表記が揺れており、本記事では「2026年7月末」と幅を持たせて記載します。
OpenAIが公開したのは、モデルID「gpt-transcribe」と「gpt-live-transcribe」の2つです。名前は似ていますが、想定する使い方がはっきり分かれています。
- GPT-Transcribe: すでに録音し終えた音声ファイルをテキスト化する、非同期・バッチ処理向けのモデルです。会議・インタビュー・商談などの録音データを、後からまとめて文字起こしする場面に向いています。
- GPT-Live-Transcribe: マイク入力や通話音声など、今まさに進行中の音声を低遅延で逐次テキスト化するモデルです。リアルタイム字幕のような、その場で文字を表示する用途に向いています。
つまり判断基準はシンプルで、「音声はすでに録音済みか、それとも今まさに話されている最中か」で使うモデルが決まります。議事録作成のように、会議終了後に録音ファイルをまとめて処理する運用であればGPT-Transcribe、会議中にリアルタイム字幕を表示したい・通話内容をその場でテキスト化したいという運用であればGPT-Live-Transcribeが基本の使い分けです。

以下は、2モデルの主な違いを整理した比較表です。
| 項目 | GPT-Transcribe | GPT-Live-Transcribe |
|---|---|---|
| 主な用途 | 録音済み音声のバッチ文字起こし | 進行中の音声のリアルタイム字幕化 |
| 処理方式 | 非同期(まとめて処理) | 低遅延・逐次処理 |
| 料金 | $0.0045/音声分 | $0.017/音声分 |
| 1時間あたりの目安(1ドル150円換算) | 約40.5円 | 約153円 |
| レイテンシ設定 | ー | 5段階(minimal〜xhigh) |
| 話者分離 | 非対応 | 非対応 |
| 対応ファイル形式 | mp3/mp4/mpeg/mpga/m4a/wav/webm(上限25MB) | 同左(ストリーム入力) |
会議の録音を後からまとめて議事録化するなら圧倒的にGPT-Transcribeが安く、進行中の会話をその場で字幕化する必要があるときだけGPT-Live-Transcribeを選ぶ、という整理になります。
2. 料金はどれくらいか。完全従量課金の目安
料金は公式に明記されており、GPT-Transcribeが1音声分あたり0.0045ドル、GPT-Live-Transcribeが1音声分あたり0.017ドルです。どちらも完全従量課金で、月額固定費のようなプランはありません。
1ドル150円換算という条件で概算すると、次のような目安になります(為替レートは変動するため、あくまで目安です)。
- GPT-Transcribe: 1時間の録音で約40.5円
- GPT-Live-Transcribe: 1時間の音声で約153円
たとえば月に20時間分の会議録音を文字起こしする場合、GPT-Transcribeであれば概算で800円程度、GPT-Live-Transcribeであれば概算で3,000円程度という水準になります。数値そのものは小さく見えますが、完全従量課金のため、利用量が増えるほど費用も比例して増えます。導入前には、自社で想定する月間の音声時間(会議何本分・何時間分か)をあらかじめ試算しておくことをおすすめします。
3. 精度は何が良くなったのか。公式ベンチマークと、正直に書く「未確認」
OpenAIは、短いフレーズ・数字・専門用語・雑音下の環境に強いと公式に説明しています。あわせて、次のような公式ベンチマーク結果が示されています。
- Common Voice(22言語)でのエラー率: 19.70%(比較対象は20.33%)
- Real-World Audio(9言語)でのエラー率: 9.60%(比較対象は11.65%)
- 文脈情報(prompt等)を与えない場合のエラー率38.5%が、与えた場合は44.6%という結果も公式に示されています(数値の位置づけ自体は公式ベンチマークの一部として公開されているものです)。
ここで一つ、正直に書いておきたいことがあります。上記の比較対象(ベースライン)が、OpenAIの既存モデルであるWhisperなのか、あるいはgpt-4o-transcribeなのか、公式ドキュメントには明記されていません。どのモデルと比べて何%改善したかという文脈は、現時点では未確認です。また、一部報道で見られる「Whisper比52%減」といった具体的な改善率も、公式が示す数値とは一致しないため、本記事では採用していません。
「公式ベンチマークで数値としての改善は示されているが、比較対象の詳細は公式に明示されていない」という点をふまえたうえで、実際の精度は自社の音声環境(雑音、話者の発音、専門用語の量など)によって左右されることを前提に評価するのが実務的です。
4.【重要】話者分離は非対応。議事録用途での最大の盲点

ここが、議事録・商談記録用途でGPT-Transcribe / GPT-Live-Transcribeを検討するうえで、最も重要なポイントです。
両モデルとも、話者分離(diarization)に対応していません。つまり、複数人が参加する会議の録音を文字起こししても、「誰が、いつ、何を話したか」を話者ごとに分けてはくれない、ということです。あわせて、単語単位のタイムスタンプや、各発話の信頼度スコアといった付加情報も返しません。
議事録の実務では、「Aさんが方針を提案し、Bさんが懸念点を指摘し、Cさんが結論を出した」というように、発言者を分けて記録することが本質的に重要です。しかし出力されるのは、話者が混ざった一続きのテキストです。誰の発言かを判別するには、後から人が聞き直して振り分ける、あるいは録音を発言者ごとに分けて別々に文字起こしする、といった手間が発生します。
OpenAIの公式マイグレーションガイドによれば、話者ごとにラベルを分けて記録したい場合は、これら2モデルではなく、別モデルの「gpt-4o-transcribe-diarize」を使う必要があるとされています。つまり、「議事録に使いたいからGPT-Transcribeを選んだが、誰の発言か分からず結局使えなかった」という事態を避けるには、最初から目的に応じてモデルを選び分ける必要があるということです。
- 単に音声を文字にできればよい(要約用途、検索用途など) → GPT-Transcribe / GPT-Live-Transcribeで十分
- 発言者ごとに分けて議事録・商談記録を残したい → 話者分離に対応した別モデル(gpt-4o-transcribe-diarize)の検討が必要
この違いを理解せずに導入すると、「文字起こしはできたが、議事録として使える形にならない」というギャップにつながりやすいため、注意が必要です。
5. 精度を上げる3つの入力。非エンジニアでもできる工夫

文字起こしの精度は、渡す情報を工夫することで底上げできます。エンジニアでなくても意識できる、公式が案内する3つのポイントを紹介します。
① prompt(録音の場面を文章で説明する)
どんな場面の録音かを、あらかじめ文章で伝える方法です。たとえば「四半期営業会議、参加者は営業部長と経理担当」のように、会議の性質や参加者の役割を説明しておくと、文脈をふまえた変換がされやすくなります。
② keywords(固有名詞・専門用語をリストで渡す)
社名、製品名、略語、業界特有の専門用語などを、あらかじめリストとして指定しておく方法です。音声の中に実際に含まれていない単語まで無理に出力されることはないため、「念のため多めに登録しておく」使い方がしやすい仕組みになっています。
③ languages(想定言語をISO639-1で指定する)
話されている言語をあらかじめ指定する方法です。日本語の会議であれば "ja" を指定します。なお、日本語に特化した精度データそのものは、現時点で公式には公開されていません(未確認)。languages="ja"という指定自体は仕様上可能です。
この3つは、いずれもプログラミングの知識がなくても「何を伝えるか」を工夫するだけで実践できる工夫です。実際に導入する際は、社内の担当者や連携先の開発会社に、「この3項目をどう設定するか」を確認しておくと、精度面での手戻りを減らせます。
6. 非エンジニアはどう使えるか。現実的な2つの選択肢
現時点で、GPT-TranscribeとGPT-Live-TranscribeはAPIを通じた提供が基本です。ChatGPTアプリ上で直接使えるかどうかは、本記事執筆時点では公式に明確な情報がなく、未確認です。
そのため、非エンジニアの立場で現実的な選択肢は、大きく2つに分かれます。
- ①社内のエンジニアや開発会社にAPI連携を依頼する: 自社の議事録運用や商談記録の仕組みに合わせて、prompt・keywords・languagesの設定を作り込んでもらう方法です。話者分離が必要な場合は、対応モデル(gpt-4o-transcribe-diarize)の要否もあわせて検討することになります。
- ②既存の議事録SaaS(Otter、Notta、tl;dvなど)が新モデルを採用するのを待つ: 各サービスがバックエンドで新モデルを採用する時期は、本記事執筆時点では各社とも未確認です。日頃使っている議事録ツールのアップデート情報を追っておくと、切り替えのタイミングを逃しにくくなります。
なお、API経由で送信したデータは、既定ではモデルの学習に使われないというのがOpenAIの一般的な方針です。ただし、この2モデル固有の追加の取り扱いについては、本記事執筆時点で明確な言及が確認できていません。社外に出せない機密性の高い会議の録音を扱う場合は、社内規定とあわせて必ず事前に確認してください。
7.【本題】文字起こしAIは「精度」だけでは議事録運用にならない
ここまで見てきたように、GPT-TranscribeとGPT-Live-Transcribeは、文字起こしという単機能の精度・コストの面では着実に前進したモデルです。しかし、実際に議事録・商談記録の運用に落とし込もうとすると、単純な話ではありません。
- モデルを録音済み用とリアルタイム用で正しく使い分ける必要がある
- 話者分離に対応していないため、発言者ごとの記録が必要な場合は別モデルの検討や、後工程の設計が要る
- prompt・keywords・languagesといった入力を、自社の会議の実態に合わせて継続的にチューニングする必要がある
- 完全従量課金のため、利用量に応じたコスト管理が要る
- API利用が前提のため、自社の業務フロー(誰がどこで録音し、どう文字起こしを起動し、どう保存・共有するか)に組み込む設計が別途必要
つまり、「精度の良いモデルが出た」ということと、「自社の議事録運用が楽になる」ということの間には、実装というひと手間があります。この隙間を埋めずにモデル単体だけを導入すると、「文字起こしはできたが、誰が何を話したか分からず結局使い物にならなかった」「毎回prompt設計をやり直していて手間が減らない」といった事態が起こりがちです。
私たちが提供している「Protostar AI Works」は、こうした最新AIモデルを、自社の業務フロー・データ・運用ルールに合わせて実装し、現場で回り続ける形に落とし込むところまで伴走する支援です。「新しい文字起こしモデルが出た」で終わらせず、実際に議事録・商談記録の運用として定着させるところまで、ご一緒します。
まとめ
OpenAIが公開した文字起こしAI「GPT-Transcribe」「GPT-Live-Transcribe」について、事実ベースで整理しました。
- 使い分け: 録音済みの音声はGPT-Transcribe、進行中の音声のリアルタイム字幕化はGPT-Live-Transcribe
- 料金: 完全従量課金。GPT-Transcribeは1音声分0.0045ドル(1時間あたり目安約40.5円)、GPT-Live-Transcribeは1音声分0.017ドル(1時間あたり目安約153円、いずれも1ドル150円換算・為替変動あり)
- 精度: 公式ベンチマークでエラー率の改善が示されているが、比較対象(ベースライン)の詳細は公式に明示されておらず未確認
- 【重要】話者分離は非対応: 「誰が話したか」を分けたい議事録・商談記録用途では、別モデル(gpt-4o-transcribe-diarize)の検討が必要
- 精度を上げる工夫: prompt(場面の説明)、keywords(専門用語リスト)、languages(言語指定)の3つ
- 使える手段: 現時点はAPI提供が基本。社内エンジニア・開発会社への依頼、または既存議事録SaaSのアップデート待ちが現実的な選択肢
「議事録にAIを使いたい」というニーズに対して、この2モデルは有力な選択肢になり得ますが、話者分離という盲点を理解しないまま導入すると、期待していた使い方ができない可能性があります。自社の運用にどう組み込むかまで含めて検討することが、失敗しない導入の第一歩です。
⚠️ 本記事の料金・仕様・提供状況は執筆時点(2026年7月)の公式情報に基づく概要です。モデルの提供状況・料金・仕様は変わり得るため、導入の際は必ずOpenAI公式の最新情報をご確認ください。

