1. 名前を検索して終わり、になっていませんか

下調べが浅いまま商談に入ると、会話は一般論になります。相手の状況を知らないので、こちらの話も「どの会社にも言える説明」になり、相手の心に引っかかりません。逆に、相手の事業や最近の動きを踏まえた一言があるだけで、「この人はちゃんと見てきてくれた」と受け止められ、商談の温度が変わります。
問題は、その差を生むリサーチに時間がかかることです。公式サイト、ニュース、採用ページ、SNS、業界動向。丁寧に見ようとすれば30分でも足りません。だから忙しい日ほど省略され、準備の差がそのまま成果の差になっていきます。
ここでAIが効くのは、情報を集めて要点にまとめる作業を肩代わりできるからです。ただし「A社について教えて」と聞くだけだと、当たり障りのない概要が返ってくるだけで、商談には使えません。鍵は、何を、どういう観点で調べさせるかを指定することです。次の章で、その観点を型にします。
2. 商談前リサーチで押さえる5つの観点

やみくもに調べると時間がかかるうえ、抜けも出ます。商談で役に立つリサーチは、だいたい次の5つの観点に整理できます。
- 基本情報:事業内容、規模、拠点、主力商材。相手の輪郭をつかむ。
- 最近の動き:直近のニュース、新サービス、採用、決算のトピック。会話の入口になる。
- 課題仮説:業界や状況から、いま抱えていそうな課題を推測する。ここが提案の起点になる。
- キーマン:誰が意思決定に関わるか、どんな立場の人と話すべきか。
- 刺さる切り口:こちらの商材を、相手の文脈でどう語ると響くか。
この5つを、AIに順に埋めさせていきます。以降の章では、この観点をまとめて聞くプロンプトと、さらに踏み込むプロンプトを紹介します。全部を毎回やる必要はなく、商談の重要度に応じて使い分ければ十分です。
3. 基本情報と最近の動きを10分でまとめる
商談の前日か直前に、まずは相手の輪郭と最近の動きを一気にまとめてしまいます。ここでも丸投げをやめ、出力してほしい項目を指定するのがコツです。
# 役割 あなたは、商談前リサーチが得意な法人営業のリサーチ担当です。 # やってほしいこと 次の企業について、商談前の下調べ用に情報を整理してください。 # 対象企業 (企業名。わかれば公式サイトURLや事業概要、最近の記事のテキストを貼る) # まとめてほしい項目(表で) | 項目 | 内容 | 情報の確度 | 項目は次の4つ。 - 事業内容と主力商材(一言で言うと何をしている会社か) - 規模感(従業員数、拠点など、わかる範囲で) - 直近の動き(新サービス、採用、ニュースなど。時期も添える) - 会話の入口になりそうな話題を3つ # 守ること - 確実でない情報は、確度の列に「要確認」と書き、断定しない - 貼った資料に書かれていないことは推測で埋めず「情報なし」とする - 資料が少なく精度が上がらない場合は、何を追加で貼ればよいかを教える # 仕上げ 最後に、商談で最初にひとこと触れるならどの話題がよいか、1つおすすめしてください。
なぜこのプロンプトが効くのか
- 「情報の確度」の列を足しています。AIは知らないことも埋めがちなので、確かな情報と要確認をひと目で分けられるようにしています。
- 貼った資料にないことは「情報なし」とさせています。これが、それっぽい嘘(ハルシネーション)への一番の対策です。
- 最後に「最初に触れる話題」を選ばせるので、集めた情報がそのまま商談の入口として使えます。
公式サイトや最近の記事のテキストを一緒に貼ると、精度が上がります。ここまでで、以前は30分かけていた輪郭把握が数分で終わります。ただし、これだけでは「調べた」だけで「仮説を持って臨む」には至っていません。次でそこに踏み込みます。
4. 課題仮説とキーマン、刺さる切り口まで用意する
リサーチが商談で武器になるのは、事実の要約ではなく、そこから立てた仮説があるときです。第3章でまとめた情報をもとに、課題仮説と、こちらの切り口まで一気に出させます。
# 役割 あなたは、リサーチから商談の作戦を立てるのが得意な営業マネージャーです。 # やってほしいこと 先ほど整理した企業情報と、こちらの商材をもとに、商談の作戦を立ててください。 # こちらの商材 (自社が売りたい商品・サービスを簡単に) # 進め方(この順で考える) 1. 整理した企業情報から、この会社がいま抱えていそうな課題を推測する 2. その課題と、こちらの商材の接点を探す 3. 接点をもとに、刺さる切り口と初回の一言に落とす # 出してほしいもの - 課題の仮説を3つ(それぞれ、なぜそう考えるかの根拠も) - 意思決定に関わりそうな部署や役職(誰に何を刺すか) - 相手の文脈での語り方(初回で言う一言の案を3つ) - 逆に、避けたほうがよい切り口や、聞かれたら困りそうな質問 # 守ること - 仮説は仮説とわかる書き方にする。断定しない - 根拠が弱い仮説には「確認が必要」と添える # 仕上げ 3つの仮説のうち、商談で最初にぶつけるならどれがよいかを1つ選び、その理由も書いてください。
なぜこのプロンプトが効くのか
- 「課題→商材の接点→切り口」の順で考えさせています。いきなり切り口を出させると、商材ありきの押し売りトークになりがちだからです。
- 仮説に必ず根拠を付けさせています。根拠があると、商談でそのまま「◯◯とお見受けして」と切り出せます。
- 「困りそうな質問」まで出させるので、痛いところを突かれても慌てずに済みます。
これで、商談に「相手の課題を踏まえた仮説」と「刺さりそうな一言」を持って入れます。ここまでをAIと5分から10分でやれるようになると、準備の質が一段変わります。ただ、便利だからこそ、そのまま鵜呑みにすると危ない場面もあります。
5. AIリサーチの3つの落とし穴と、その避け方

AIのリサーチは速くて便利ですが、そのまま信じると足をすくわれます。よくある落とし穴は3つです。
- 誤情報(それっぽい嘘):AIは知らないことも、もっともらしく埋めてしまうことがあります。会社名や数字、直近の出来事は特に、そのまま信じず一次情報で確認する前提で使います。
- 浅い仮説:情報を渡さずに聞くと、どの会社にも当てはまる一般論の仮説しか出ません。公式サイトやニュースの実物を渡し、根拠を書かせることで、仮説の解像度が上がります。
- 出典が確認できない:どこからの情報かが曖昧だと、商談で自信を持って使えません。「出典や根拠も添えて」と指示し、あやしいものは自分で裏を取ります。
対策はシンプルで、AIには「調べて要約する」と「仮説を立てる」をやらせ、事実確認は人がするという役割分担をはっきりさせることです。この線引きさえ守れば、リサーチは速く、かつ安全になります。
6. 「誰がやっても同じ質」にしたくなったら
ここまでのプロンプトは、その場で使うだけでも十分に効きます。ただ、使い込むほど欲が出てきます。毎回、自社がよく当たる業界の知見や、過去に刺さった切り口、参照してよい情報源を、AIに自動で踏まえてほしくなる。商談相手の名前を入れるだけで、自社のやり方に沿ったリサーチメモが出てくる状態にしたくなります。
ここまで来ると、それはプロンプト1枚の話ではありません。実際に組むと、たとえばこうなります。商談相手の企業名を入れると、Web検索や企業データベースから最新情報を取りに行き(Difyやn8nに検索を組み込む)、自社の勝ち筋や過去事例を読み込ませたナレッジも一緒に参照して、第3章・第4章の形式で出典つきのメモを生成する。あやしい情報は「要確認」に落とす判定も挟みます。
安定して使えるようにするには、ここから先の作り込みが要ります。どの情報源を信頼して見に行かせるか(怪しいサイトを掴まないように絞る)、古い情報を掴んだときの扱い、出典をどう残すか、業界ごとに聞く観点をどう変えるか、といった調整です。ここが「便利なプロンプト」と「毎回同じ質のリサーチが出てくる仕組み」の間にある距離です。
まずは第3章と第4章のプロンプトを、次の商談で試すところから。手応えがあって「これを毎回、同じ質で出したい」と思ったら、そこが仕組みにするタイミングです。検索の組み込みや情報源の設計、精度の検証といった作り込みは、実装と運用の勘所を持つ相手に一度相談すると、遠回りを避けられます。
まとめ
営業リサーチをAIで効率化する鍵は、速く調べることだけではなく、押さえる観点を型にして、事実確認は人がやるという使い方にありました。
- 商談で役に立つリサーチは「基本情報・最近の動き・課題仮説・キーマン・刺さる切り口」の5観点に整理できる
- AIには観点を指定してまとめさせ、情報を渡して仮説の根拠まで書かせる
- 誤情報や浅い仮説に注意し、事実確認は人が担う役割分担にする
まずは次の商談で、第3章のプロンプトを使って下調べをしてみてください。数分で相手の輪郭がつかめ、仮説を持って臨めるようになります。そして「これを毎回、同じ質でやりたい」と感じたら、そこが商談準備の質を底上げする入口になります。

